大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

福岡地方裁判所小倉支部 昭和44年(ワ)148号・昭44年(ワ)103号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔判決理由〕ところで、指名債権譲渡につき、債務者が譲受人に対し異議を留めずこれを承諾した場合でも、譲受人において、右承諾を受けた際、債務者が譲渡人に対抗しうる事由につき、悪意であるかまたは善意であつてもそのことに過失があつたときは、債務者は、譲渡人に対抗しうる事由をもつて譲受人に対抗しうると解するのが相当である。けだし、債権譲渡につき異議を留めない承諾をした債務者が譲渡人に対抗しうる事由をもつて譲受人に対抗しえない効果を生ずるのは、債務者が異議を留めない承諾をした事実に公信力を与えて譲受人を保護せんとするものだからである。

さて、原告等は、フジエが同女の文に対する貸金債権を被告に譲渡し、文が右債権譲渡につき被告に異議を留めず承諾をした際、被告において、右債権が存在せず虚偽のものであったことを知っていたものであり、知らなかったとすればそのことにつき被告に過失があった旨主張するので、この点につき判断する。

<証拠>を綜合すると、被告は、前記のとおり、昭和四三年一二月六日頃、フミ子に籠絡されたフジエから、同女の文に対する虚偽の貸金二五〇万円の債権を譲受けたものであるが、フミ子は、それ以前に、自己およびフジエ連帯保証のもとに、被告より石橋桂男が借受けてくれた金二〇〇万円を自ら費消しその返還に窮した末、その支払猶予をはかつて、フジエが木村幸雄に金三五〇万円を弁済期日同年一一月末日の約定で貸与している旨の借用証書を偽造し、フジエをまるめこんで同年一〇月末日頃、同女をして同女の木村に対する右虚偽債権を被告に譲渡させたこと、しかし右虚偽債権の弁済期が近づくや、同年一一月頃、フミ子は、フジエをして被告に対し、「木村に対する貸金は既に全額弁済を受けた。」と告げさせたが、次いで、被告から、「木村から受取つた金を返せ。」と迫られたフジエは、同年一二月初旬のある朝、フミ子と共に、被告に対し、「右金員は山口銀行下関支店に定期預金として預けている。だから定期預金を今から取りに行くから待つてくれ。」と述べて出かけたが、もとより右定期預金は存在しないのであるから、ほどなく二人は帰つて来て、被告に対し、「印鑑が違つていたので、定期預金を卸すことができなかつた。」旨述べたこと、そこで、被告は、その日の午後右銀行に電話して該当預金の有無を調査したところ、右預金が存在しないことが判明したので、直ちにフミ子方にいたフジエをなじつたところ、同女は、被告に対し、「実は銀行から卸して文に金二五〇万円、宮田光義に金一〇〇万円貸している。」と偽り、昭和四三年一二月六日頃、右各虚偽債権を被告に譲渡し、前記のとおり、予め言い含められていた文は、翌七日頃、被告に対し、右債権譲渡を異議を留めず承諾したものであること、以上の事実を認めうる。

右認定事実からすると、被告が前記債権譲渡につきその債務者たる文から異議を留めない承諾を受けた際、被告において知りえたフジエの前後矛盾した行動から、被告は、右譲受けにかかる債権が虚偽のものであることを容易に知りえたと認めるのが相当であり、仮に、被告において右債権が虚偽のものであることを知らなかつたとしても、知らなかつたことにつき被告に過失があつたものというべきである。

よつて、債務者たる文は、債権譲受人たる被告に対し、債権不存在をもつて対抗しうるところ、原告等は、被告に対し、債権譲渡にかかる文の被告に対する債務を引受けたものであるから、原告等は、被告に対し、当然、引受にかかる債務の不存在を主張しうるというべきである。(寒竹剛)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!